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今回の撮影に関して何が大変かって、
次界障壁に阻まれる格好、
もう直接には逢えない身となったはずだった愛しい兄様の姿そのままな人物が、
生身ですぐそばに現れたらしいことへの困惑がやまない敦くんで。
元居た次界から弾かれたことが原因だったらしい記憶への枷、
ご本人との再会でようやっとほどけたという奇跡的な体験をしたものの、
そのまますぐにも次元の壁に隔てられ、おそらく二度と同じ空間に居られぬお別れとなった人。
ある意味 反則技ながら、不思議なアイテムを預けられ、
リアタイでお顔やお声に通信で接することは出来るよになったとはいえ、
画面越しでの対面しかできなくなってた兄様と瓜二つ、
何ならご本人の転生体かもしれないお人と、
直接接する機会がいきなり降ってきて…なのに、
「なんでこんな翻弄されなきゃいけないんでしょうね。」
ううう、と。
まだまだ愛らしい幼さの残る風貌を曇らせて、困った困ったと吐露する彼へ、
こればっかりは代わってやることもできないがため、
中也や芥川という過保護な兄たちも、
どうしたもんかねと眉をひそめるやら肩をすくめるやらしてくださるばかり。
それはそれは慕っていた存在だっただけに、
しかもそうだと思い出したばかりなのに、
永遠にお別れという過酷な寂しさを突き付けられちゃった境遇ゆえに、
いろいろとまだ飲み込めていないところをリアルにぐさぐさ突々かれているようで辛い。
しかもしかも、そんな境遇になっちゃったばかりだというに、
そういったあれもこれも何も知らないのだろうお相手であるがゆえ、
当然のことながら彼には一切罪はなく、
その上でこちらの切なる感情を決して悟られないよう、抑え込まにゃあならないなんて。
「いや、別に懐いて仲良くなっちまうのは構わんだろうに。」
そういう方向での禁忌はないと思うがと、
自身も記憶は戻ってはなかった敦とさりげなく仲良くしていた身の中也が呆れて助言したものの、
「そんなあっさりと〜〜〜。」
途端に紫水晶と琥珀の合わさったよな、玻璃のような双眸をゆがませて、
赤毛の兄人にしがみつき、悲痛なお声を上げる虎くんだったりし。
というのが、敦くんにしてみれば、それもまた艱難の要素に他ならないようで。
経歴も評判もそれはいいお話しか聞かれないし、
ご本人の気性も…ああまで冴えた面差しはあくまでも役柄できりりと引き締めているだけのお話で、
繊細そうなお顔、柔らかく微笑ませればそれは人懐っこく、
気性も穏やかで人当たりもいい、穏健なお人であられるようであるのだが、それはそれ。
あくまでも初対面のお仕事仲間さんであり、
お付き合いも一から始めることとなるのに、
ああいい笑顔ですね、いいお声ですね。そうそうそういう笑い方なさいますよねと、
ついつい重なるものがあるのは如何ともしがたくて。
「兄様〜って飛びつきたくなるのを抑え込むのがどれほど大変か。」
「…それは大変だねぇ。」
何で大威張りなのか、何で途方もないこと言いださないでと非難されねばならぬのか。
身をよじるよにして煩悶している、純情繊細な少年の心持ちは、
大人の我らには難しいと、
顔を見合わせる兄人たちだったりするのであった。
◇◇
ちょっぴり中華風の和装、小袖と筒袴の上へ色のついた厚衣を重ね着た小柄な坊やが、
屋根付きの四阿にポツンと座っていたのだが。
そよぐ風の中、何かに気がついて顔を上げ、
すっくと立ちあがると周囲に広がる草原へと分け入ってゆく。
「兄様っ!」
一体どこまで広がっているものなやら。
たとえではなくの海原のように広大な草原のただなか、
腰に結わえた絹の帯の端をひらひらとたなびかせ、
時折 根の株につまずいては足を取られつつ、
淡緑の海原に白い銀の髪がかき消されそうになりながら、
それでも幼い四肢を泳ぐように懸命に動かして。
自分の背丈以上なところもある草の海を掻き分け掻き分け、
とある方向へと迷いなく突き進んでゆき。
行く手に立っていた人物へ、えいと地を蹴って飛びついて抱き着けば、
「暁。」
さらさらと淡色の長い髪を風の中に泳がせて、すっくと立っておられた人物が、
爽籟と呼ぶには随分と荒々しい、虎落笛のようだった風の音に紛れそうだった小さな気配を、
だのに容易に拾い上げたのだろう。
何とも間合いよく振り向くと、ほどけるようにやわく微笑んでその懐へ受け止めてくれた。
こちらも厚絹仕立ての筒袖に、立て襟が勇ましくもある中華風の導師服をまとっておいでで。
軍服のようにも見えなくはない凛々しいいでたち、
嫋やかで線の細い印象がするお人なのに、不思議とそんな勇ましさもまたよく映える。
異次元の世界に威容を張って存在している神獣の化身。
___ 上位世界にあたる異次元に存在なさっていた、
それは尊い、翠龍の現人神様だ。
仰々しい言いようになったけれど、
ここはそういった象徴様がひょいとおわすよな、形而上の存在が現存する世界でもあって。
風や雷などなどをつかさどる“象徴”様のお一人、
1つの属性が一人ずつしか存じない、それほどに強大な能力持つ龍族であり、
なればこそ、この広大な草原領域を穏やかに治めていらっしゃる。
色々な地域や次元へも通じていて影響を降らせもするというが、
詳細までをいちいち細かく把握してはないようで。
小さな生き物たちが身を寄せ合って暮らすのを見守るように、
むやみに乱れぬよう目を配りつつも、在るように在れば良しと構えておわす。
そんな領域にある日不意に現れたのが、たった一人の小さな赤子で。
不思議な次界に突然生を受けた存在だ、この上位界にかかわりのある子だろう。
同属の親があって生まれた子ではないということは、
一種に一人の大きな力を持つ存在だろか?
小さい身なのに小さからぬ覇気を帯びており、
群れを成す小さきものらが落ち着かない中、
今はまだ小さな魂をその両腕で掬い上げたのが翠龍様。
育ったのちはともかく今の今は、誰かが守ってやらねばなるまいと、
幼い存在をその懐へと優しく掻い込んで、
ご自身の庇護の下へと迎え入れてしまわれた。
朝焼けのような瞳をしていることから“暁”と名付けられた赤子は、
他の生き物よりはゆっくりながら、それでもすくすくと育ってゆき、
親代わりの翠龍様とともに領域を見て回り、
陽を浴び、風の香を嗅ぎ、嵐から庇われ、現世のいろいろな理を学んでいる。
鬼の眷属らしいと言われつつ、だが本人にはちいとも荒ぶる様子は現れずで、
ただただ無邪気に駆けまわったり転がったり、
伸び伸びと子供の時代を過ごしているといったところ。
……と。
そういった馴れ初めというか、
暁くんの子供時代を回想として最初の方に入れるのだそうで。
何もストーリーの順番通りに収録しなくともいいのだが、
子役くんの出番を一気に撮ってしまおうという手筈か、
彼がかかわるシーンを集中しての撮影となっているらしい。
「あ、中島さん♪」
他にも小さき種族の子供としての子役が集められてもいはするが、
主役の子供時代の役ということで、どうしても大人たちと同じよに扱われの出番も多い。
演技の指導やら、こういう風にしてみてという修正が監督から入るのへ、
素直にうなずいて聞き入っていた幼い横顔が、ふとこちらを向いたのは、
出番もなくてと広いスタジオをお散歩していたらしい顔見知りに気が付いたから。
乱闘シーンが入っていての段取り待ちでもあったため、
特に衣装をまとっているでなし、動きやすいトレーニングウェアでいた敦であり。
他のスタッフと紛れてしまえるかと油断していたものが、あっさり見つかったのへ、
「おお、中島くん、来てたんだね。」
いい機会だからと、こそり覗いてたのを見つかったそのついで、
悠太くんが駆け寄ったのにつられるように、
スタッフたちも注意を向けて来て、そのついでにということか、
新加入のお兄さんだよと、某氏との初めてのご対面と相成った。
え?え?と話の流れへ戸惑うやら、
何もこんなついでみたいな恰好で…と突然の成り行きにどぎまぎするやら。
それでもそうという流れには逆らえず、
「えと…初めまして、中島敦と言います。」
呼ばれるまではと下がったところに立っていた彼の人物、
話の流れに乗るように歩みを進めて来て、
それは自然な恰好で向かい合わせな位置へと立ち止まる。
何とはなくの恐れ多くて視線をうろうろさせていたものの、
それはかえって失礼だと腹を決め、
もじもじしつつぺこりと頭を下げれば。
やんわりと双眸を細めて微笑んだ長身の君、
「シグマと言います。こちらこそよろしくお願いします。」
仕事上のお名前はファーストネームオンリーで通してらっしゃるそうで。
こうまで近くで見ることとなったお顔は
写真で何度も観たそれよりもずんと柔らかな笑みを載せていての、
温かくて優しそう。
声も、やや硬く思えたがそれでも日本語の活舌は完璧で、
後で知ったが同居していた祖祖母さんが日本人のハーフだったそうで、
幼いころから日本語も自然と使ってたのだとか。
子供好きか悠太くんもかなり懐いているようで、
敦を見かけて駆け寄って来たものの、シグマさんの側にくっついているのが何とも微笑ましい。
迷惑にはならないようにと思ってだろう、
導師服の裾辺りをチョンとつまむようにしている遠慮がちなところが可愛くて。
「う〜ん、なんか壮観だねぇ。」
敦くんの子供時代と、
大きくなったらこうなるのかぁっていう大人の予想図が一緒にいるようで、なんて。
監督さんやスタッフの皆様が
苦笑というか微笑ましいねぇなんて顔になったひと時だったそうな。
to be continued.(26.08.21.〜)
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*今現在の記憶しかない、何だったら一生思い出さないかもしれないお人だというに、
こっちは前世とその前の記憶も持ってる敦くんの、葛藤というか煩悶というか。
そんな状況だったのに一切感じさせないまま
敦くんをいい子良い子出来てた中也さんて偉大だなぁと、
その懐の深さをあらためて尊敬したのは言うまでもありません。

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